【いじめの定義】どこからがいじめ!?学校現場から見た最近のいじめ【教師目線】
「いじめ」という言葉はよく耳にするけど、いったいどこから「いじめ」になるのか気になったことはありませんか?
「いじめ」かどうか判断するのは教員ではありません。いじめかどうか判断するのはいじめられた児童本人です。
その理由は、「いじめ対策推進法」という法律に基づいて考えられています。
私は教員として何百件ものいじめ事案を目の当たりにしてきました。
この記事では、学校現場の実際の「いじめ」について解説したいと思います。
記事を読めば世間が抱いている「いじめ」とは多少なりとも違いがあることに気付くことができます。
「いじめ」かどうかは本人次第
どこからがいじめになる?
何をされたらいじめになるか、3つの事例から考えてみましょう。
1は故意に相手を傷つけるために行われる行為です。
2は善意ではあるものの、相手に注意をする行為です。
3は故意ではなく、どうしようもなく避けられなかった行為です。
実は1、2、3の全てがいじめに該当する可能性があります。
1の場合はいじめと認識されやすいですが、2は人によって判断が分かれそうです。3をいじめと判断する人はほとんどいないでしょう。
しかし、なぜすべて「いじめ」に該当してしまうのでしょうか。
法令上のいじめ
いじめ対策推進法に規定されているいじめの定義を確認する必要があります。
この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
いじめ対策推進法二条一項
今回注目するのは「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」です。
これを分かりやすく言い換えると
となります。
平成18年度以前は「自分よりも弱い者に対して」「一方的に」「継続的に」「深刻な」といったいじめについてある程度の規準が設けられていました。
しかし、現在は「いじめられた」と被害児童が言えばいじめとして認定されることになります。
ドッジボールの例で考えてみたいと思います。
当然ドッジボールをしていれば、頭に当たることもあります。
アウトにするために速い球を投げることも当然のことです。
ドッジボールとはそういう遊びだという認識の上で子供たちは遊んでいます。
しかし、たとえば被害者側が自己中心的な性格で「頭を狙って、思いっきり投げられた。」「これはいじめだ」と言ってしまえば、いじめになるのです。
もちろん指導の対象は被害者(自己中心的な方)です。
しかし、形式上「いじめ」に該当するため、管理職や保護者への連絡、文章の作成等が必要になります。(自治体ごとに作成されたガイドラインに沿って行われます。)
被害者側の保護者の主張によっては、ドッジボールのルールを学校側で指定するなど、厳格化せざるを得ない状況になることも考えられます。
改めて、いじめの定義や判断についてまとめます。
- 「期間」、「内容」、「程度」、「客観性」はいじめかどうかの判断に一切関係しない
- 本人がつらい、嫌だと感じたらすべていじめになる。
- 子供が主張していなくても教師、保護者が「いじめ」だと判断することは可能である
法令上と社会通念上の「いじめ」のズレ
いじめ対策推進法で定められた「いじめ」と世間一般がイメージしている「いじめ」には大きなズレがあることが分かるかと思います。
このズレによっていじめ問題が複雑化するケースが多くあります。
法律で定められている以上、教師はいじめとして取り上げなければならないのですが、保護者に理解されないことが何度もあります。
「あなたのお子さんがいじめをしています。」
と言えば内容によっては「なぜそれがいじめになるの?」とトラブルが拡大します。
普通に生活をしていてもいじめる側になってしまう可能性があるのが今の学校現場です。
いじめの範囲の拡大
この法律が起案された要因としては、いじめによって命を絶ってしまった生徒が出たことが大きく関係します。
いじめ対策推進法によって「いじめ」の範囲がとてつもなく大きく拡大しました。
このグラフを見れば分かるように、いじめの認知件数が小学校を中心に増加傾向にあります。
これは、いじめをする子が増えているという単純な問題ではなく、いじめの範囲が大きく広がったことを意味します。
この現状が良いか悪いかは置いといて、いつ、どこでもいじめが発生し、誰でも関係者になるという認識を持つことが大切です。
文句を言ったもん勝ち
職場で働いて思ったことです。
働いていて、本当に深刻で即座に解決しなければならない重大ないじめに遭遇することは数年に1度あるかないかです。
実際は「悪口の言い合い」など、双方に問題があるトラブルがほとんどです。
学校で勉強や遊びをしていれば嫌に感じることの一つや二つ誰でも感じることはあるかと思います。
- 不祥事など教師への信頼が低下していること
- 保護者が昔と比べて学校に介入する機会が増えたこと
様々な要因が重なり、現在の学校現場では、文句を言ったもの勝ちになっています。
うちの子がいじめられた。明日から学校に行きたくないと言っている。絶対に許せない
この言葉を学校に電話で言ったもんなら無敵になれます。
学校側としては保護者の気持ちをおさめ、対象児童の聞き取りを何度も重ねながら解決を目指します。
加害者にあたる子供の保護者にも連絡をすることになるのですが、ときには
え、そんなことで・・・?
という反応をされることも少なくありません。
問題が複雑になる主な原因
数多くのいじめを見てきた経験上、いじめが複雑化し解決できなくなってしまう多くのケースは親が必要以上に介入してくることです。
- 子供が親の期待に応えようとウソをつきだす。
- 親が 子供の話を鵜呑みする。
- 学校を敵対視する。
子供が親の期待に応えようとウソをつきだす。
よく勘違いしがちなことで、「自分には正直に話してくれる」と思い込んでいる親がいます。
いつも身近にいる親だからこそ「嫌われたくない」「叱られたくない」「失望させたくない」と思い子供がウソをつくことは珍しくありません。
- 先生が怖かったから本当のことを言えなかった
- 私は何も悪いことをしていない
- 向こうが一方的にやってきた
とにかく、自分に非はなく「相手のせい、先生のせい」と責任逃れをする子供もいます。
ウソをついたり、ごまかしたりすることは誰でも経験のあることです。特に子供は大人にとって些細な事でもウソをついてしまいます。子供はウソをつくものだという前提で話を聞く必要があります。
もし、親が子供のウソを鵜呑みしてしまうと、成功体験から子供はまたウソを繰り返すようになってしまいます。
子供と同じレベルで話を聞くのではなく、あくまで親として俯瞰してみるよう努める必要があります。
「同じ立場」に立って話を聞くのであって、「同じレベル」で聞かないように気を付けましょう。
子供の話を鵜呑みにする
先ほど述べたことに関係しますが、子供の話すことが全て真実だと思い込む保護者の場合、問題が一気に複雑化します。
たとえ、子供がウソをつこうとしていなくても、当時の状況をちゃんと把握しているとは限りません。
時系列がごちゃごちゃで冷静に考えれば起りえないような話をする子もいます。
しかし、その内容が衝撃的であれば、感情的になってしまい学校に連絡がくることがあります
うちの子が何も悪いことしていないのに担任に一方的に決めつけられたと言っている。どういうことですか!?
こんな電話を受け取ったことは何度もありました。
こうなると正しい事実を説明しても納得してもらえません。
感情的になって電話してしまうと、後に引けなくなってしまうのです。
それ以降どんなに丁寧に説明しても暖簾に腕押しです。
後に引けなくなったとき、どんどん問題が広がっていっていつの間にか学校が悪いということになり、子供同士の問題が解決できなかったことは何度も経験しました。
学校を敵対視する
学校側は子供から出た言葉で事実確認を行います。
「どうせ悪口を言ったんでしょ!」「向こうがいじめられてるって言ってるんだから何か悪いことしたんでしょ」
といった教員の主観で決めつけないよう、子供の発言を重視して聞き取りを行います。
- いつ起きたことか
- どこで起こったことか
- 何をされた・したのか
- どうしていじめ行為が起こったか
- 他に見ていた人はいるか
- いじめ行為をしていた・された時の気持ち
- いじめ行為をするに至った背景は何か
- 相談は教師以外に親や友達にしたか
- これからどうなってほしいか
子供は記憶が曖昧だったり、うまく言葉で説明できないことが多くあるため、時間を掛けてなるべく正確に聞き取りを行います。
事案によっては休み時間の聞き取りだけでは全く足りないということもしょっちゅうあります。
聞き取りで得られた事実を加害・被害両方に連絡するのですが、
- 聞き取りに時間を掛けすぎ。子供がかわいそう
- 家で言っていることと全く違う
- 無理やり言わされたと言っている。 謝罪を強要されたと泣いている。
と反応されることも少なくありません。
先に述べたように子供は、教師にはもちろん親に対してもごまかし、都合の良いように話すことが珍しくありません。
学校が常に正しいことを言っているとは全く思いませんが、家庭が常に正しいことを言っているとも思いません。
話がこじれて、うまく解決できないことは当然のようにあり得ます。
だからこそ学校と協力して解決を目指さなくてはなりません。
学校を敵対視するのではなく、協力して子供の問題を解決する姿勢が重要不可欠です。
いじめが起きたときに親ができること
子供や学校の話をよく聴く
子供が話すこと、教員が話すことをしっかりと「聴く」ことが大切です。
教師もそうですが、自分の経験や子供の性格を基に話を決めつけてしまうことがあります。
蓋を開けてみたら想定していたものとは全く違う内容だったことはよくあります。
まずは、よく話を聴いて正しい事実は何なのか冷静に判断する必要があります。
学校と協力する
問題を解決するにはチームプレーが不可欠です。
子供は当事者のため、一番事情をよく分かっています。しかし、うまく言葉にして表現できず、正直に言えない面もあるため大人がフォローすることが必要です。
教師はいじめ対応の経験が豊富にあります。また加害・被害児童の両方の性格や関係性も詳しく知っています。ただし、個別でのコミュニケーションの機会が少ないため、子供が本音を語りづらい相手です。親のフォローが不可欠です。
親は子供との関係性が誰よりも親密です。親にしか相談できない内容もあり、子供からの信頼感が圧倒的に違います。また、子供への理解も深いです。しかし、子供の社会性には意外と気付いていないことがあります。子供が学校で見せる顔と家で見せる顔は違うため、教師のフォローが不可欠です。
3者がお互いに協力する関係性を築き続けることが問題の早期解決につながります。
教師が子供・親の悪口を言い、親が教師の悪口を言うような関係は問題をより複雑にします。
複雑になった結果、一番被害を被るのは子供です。
大人によって子供が悲しい思いをするのは断固として許されません。
折り合いを付けながら協力して解決することに努めることが大切です。
子供の背中を押してあげる
子供の話を親身に聞くことは必要不可欠です。
しかし、時には背中を押してあげることも必要です。
最近は、子供を全肯定する考え方が増えてきました。
もちろん、子供を尊重することは大切ですが、全肯定することは非常に危険です。
親は子供の味方になるのではなく、子供を「支援」「教育」すべき立場です。
悪いことは悪いと教えなくてはいけません。
「大丈夫?」ではなく「大丈夫だよ」と背中を押してあげることも大切です。
子供の機嫌を取ろうとすることが目的になってしまうと、「いつも親は味方してくれるから」と子供がトラブルを何度も重ねてしまう原因になりかねません。
まとめ
この事実は、とても重要ですが、あまり周知されていないことかと思います。
もちろん、教師のひどい対応によってつらい目にあっている子供がいることも事実です。
しかし、現場で働いていると、どんなに正しい手順を踏んでも親の協力が得られないと解決できないことの方が圧倒的に多いと実感します。
なにより、一番の被害者は子供です。
子供達を守るために、大人が協力しあえる環境を準備したいですね!
現在現場に勤めているものです。記事を拝見させていただきました。とても参考になる内容ばかりでした。
私の周りでこの記事と同様なことがあり、質問をさせていただきます。。保護者が必要以上にいじめ問題に加入した際、結果的にしわよせは子どもにいってしまうということを、保護者にはどのように気づかせていけばよいのでしょうか。保護者に対して直接「冷静な姿勢が重要です」「ひとまず事実確認を行いましょう」などと話を行っても、ほとんど受け取られないケースが多いようです。(保護者は自分の子どもに、仮に嘘であったとしても「学校でいじめられている」と聞いた際、どうしても冷静さを欠いてしまうのではないかと思われます。)
ブログへのコメントありがとうございます。 私も過去に同じような悩みを抱えたことがありました。
正解はないと思いますが、個人的な考えをお伝えいたします。
私が保護者対応で大切にしているのは、保護者の不安を解消することです。 担任とトラブルになってしまうときの保護者は「いじめの解決」よりも「自分の気持ちを聞いてほしい」と思っていることが多いと感じます。 学校側も「子供のため」と思っていますが、保護者とのゴールがずれているとトラブルになりやすいです。 (もちろん、保護者によって違います。)
そのために私が実践していたことは
1.保護者の話を傾聴し、共感する。
決して正論を言わずに、保護者の気持ちに寄り添います。 保護者に余裕ができてくると担任の話を受け入れるようになったり、「待つ」という選択肢も出てきたりします。
まずは、保護者と担任の間に信頼関係を築くことが大切です。
信頼関係が築けていないのに、いじめの問題と保護者を離そうとすると拒否反応が出てしまいます。
「担任に何が分かる」「私があの子を守ってあげなきゃ」とヒートアップしてしまうと後に引けなくなってしまいます。
まずは、保護者とよく会話をしたうえで気持ちを落ち着けさせることが最優先だと思います。
2.子供のために一生懸命対応していることを伝える。
いじめはすぐに解決できないこともあります。そのとき、担任の印象が悪くなると問題がさらに難しくなります。
「担任は頑張ってくれている」と思ってもらえるように様々な方法でアピールすることも大切です。
この件については、後日詳しく記事にしたいと思います。
このようなアドバイスがすべてのケースに当てはまるとは限りませんが、少しでもお悩みの解決に近づければ幸いです。